クラウドの設定画面には即死トラップがある
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https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2606/12/news129.html
厚労省のTeamsチャットが2年10カ月分消失した、というニュースを見た。
2023年1月4日から2025年10月29日までに送信されたTeamsのチャットや共有ファイルなどが消え、一部は復元困難らしい。原因は、グループウェア運用を委託されていた東芝側の作業ミス。厚労省の発表では、情報漏えいではなく、削除されたデータは完全に消去されたとのこと。
完全に消去。
いや、漏れていないのはいい。漏れていないのは本当にいい。行政情報が外に出たわけではない。それはもちろん大事だ。
ただ、完全に消えているのも、それはそれでだいぶ困る。水漏れはしていません。家は燃えました。みたいな話である。
この手のニュースを見るたびに、もちろん作業ミスをした現場が悪い、という話にはなる。ならざるを得ない。委託先の運用作業で行政文書相当のデータが消えたなら、それは重大な事故だ。
でも同時に、現場だけで完全に防ぐのはきつくないか、という感覚もある。
クラウドサービスは、大量のユーザーを抱えている。個人も使う。企業も使う。官公庁も使う。学校も使う。海外拠点を持つ組織も使う。監査対応が必要な組織も使う。訴訟対応でデータ保持が必要な組織も使う。退職者のデータ管理を細かくやりたい組織もある。保存期間を短くしたい組織もあれば、長くしたい組織もある。
そういう多種多様なニーズに合わせて、クラウドサービスは進化していく。機能が増える。設定項目が増える。権限が増える。保持ポリシーが増える。例外設定が増える。管理画面の奥に、さらに管理画面が増える。
そして個々の設定は、だいたい必要なものだ。
古いデータを整理できる。退職者のデータを扱える。チャットの保持期間を決められる。バックアップや復元のルールを決められる。グループウェア更改時にデータを移行できる。ひとつひとつは、なるほど必要ですね、という顔をしている。
しかし、それらの設定項目が順列組み合わせ的に絡み合った先に、ある日突然、即死トラップが現れる。
昔の rm -rf / は、黒い画面に打ち込む明らかに危険な呪文だった。見た目からして危なかった。素人が近寄ってはいけない空気があった。
今の rm -rf / は、きれいなWeb管理画面の中にいる。
「保存期間を変更しますか?」
「この範囲に適用しますか?」
「既存データにも反映しますか?」
「次へ」
「保存」
「適用」
ボタンの顔が優しすぎる。
その奥に即死トラップを隠しているのに、見た目は業務用アプリの普通のボタンである。角丸で、余白があり、たぶんアクセシビリティにも配慮されている。お前、そんな顔で二年十カ月分を消すのか。
もちろん、重要操作には確認画面があるだろう。警告も出るだろう。権限管理もあるだろう。運用手順書もあるだろう。ダブルチェックもあるだろう。
でも、クラウドサービス側が日々変わり続ける。管理画面が変わる。仕様が変わる。便利機能が増える。古い制約がなくなる。新しい例外が増える。オンプレ時代なら、システム構成やアップデートのタイミングをある程度固定できたかもしれない。ところがクラウドでは、サービス側がどんどん先へ行く。現場の運用手順書は、その動く床の上で正しさを保ち続けなければならない。
それはつらい。
現場の人間に「絶対にミスするな」と言うのは簡単だ。もちろん言う必要もある。だが、設定項目が増え続け、依存関係が複雑化し、画面の奥に即死トラップが仕込まれているなら、そのトラップ側にももう少し意思を持ってほしい。
この操作をすると、本当にこれだけのデータが消えます。
この範囲には行政文書相当のデータが含まれる可能性があります。
この削除は復元できません。
いや、警告文を出すだけではなく、もっとこう、肩をつかんで止めてほしい。
「お前、今ほんまにそれ押すんか?」くらい言ってほしい。
クラウド側でなんとかしてくれや。
一生一緒にいてくれや。
便利さのために複雑になったサービスなら、その複雑さの最後の面倒も少しは見てほしい。ユーザーに設定項目を渡すだけ渡して、あとは運用で頑張ってください、だと、人間はそのうち押す。人間は押す生き物である。そこにボタンがあれば押すし、手順書に書いてあれば押すし、忙しければ確認画面も読むようで読まない。
だから即死トラップを仕込むなら、せめて発動する前に床を赤く光らせてほしい。
それでも押しそうになったら、クラウドのほうから全力で抱きしめて止めてほしい。
尊敬しあえる相手とともに成長したいねん