背徳系は二郎系よりもちづきさん系なのか
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冷やし中華に背徳系の波が来ているらしい。
具材モリモリ、極太麺、でかいチャーシュー、マヨネーズ、揚げ玉、フライドオニオン。そういう食べ応えのある冷やし中華が増えている、という話である。冷やし中華というと本来は、細い麺にきゅうり、ハム、錦糸卵、紅しょうが。さっぱり。夏。酸味。そこに背徳系がやってくる。
背徳系。
この言葉がちょっと面白い。記事を読むと、どう見ても二郎系っぽい要素がある。極太麺。ワシワシ麺。巨大チャーシュー。野菜が山のように盛られている。なのに、見出しでは二郎系とは言わずに背徳系と言っている。
まあ、商標とか、元祖への配慮とか、ラーメン界隈の面倒くささとか、いろいろあるのかもしれない。知らない。知らないので雑に言う。二郎系と言うと急に具体的になりすぎるのだろう。背徳系と言えば、もっと広く、もっとふわっと、もっとテレビ向きになる。
一応調べてみると、背徳系という言葉はかなり普通に使われているようだ。ラーメンだけではない。チーズ、バター、生クリーム、深夜スイーツ、にんにく、脂、マヨネーズ、カロリー。そういう「体に良さそうではないが、今だけ許してほしい」みたいな食べ物に貼るラベルとして使われている。
そう考えると、背徳系は二郎系の別名というより、むしろ『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』系なのかもしれない。望月さん度が高い。
二郎系は、ラーメンの系統である。太麺、豚、野菜、ニンニク、アブラ、店ごとのルール、コール、あの独特の緊張感。背徳的ではあるが、背徳だけでできているわけではない。あそこには文化がある。儀式性もある。軽い競技性すらある。
一方で、もちづきさん的な背徳は、食べ物の系統というより、理性が負ける物語である。今日はやめておこう。普通に考えたら多い。今これを食べる必要はない。そう思っているのに、気づいたら完食している。そういうやつだ。
背徳系という言葉は、その理性が負ける瞬間を商品名にしている。
普通なら「高カロリー」「脂っこい」「健康に悪そう」「食べ過ぎ注意」と言われそうなものを、背徳系と言い換えるだけで、急にポジティブ?になる。罪悪感を消すのではなく、罪悪感をフレーバーにする。
この変換は強い。
高カロリーです、と言われると、やめておこうかなと思う。背徳系です、と言われると「ちゃ、チャレンジする?」となる。脂が多いです、と言われるとちょっと引くが、「背徳感があります」と言われると、ちょっと試したくなる。人間は言葉に弱い。
実際、『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』はセブン-イレブンとコラボして「背徳メシ」を出していたらしい。背徳系という言葉は、二郎系の言い換えというより、もちづきさん的な食欲の暴走を受け止めるラベルなのだろう。
冷やし中華に背徳系という言葉を貼るのはギャップ萌え的な要素もある。
冷やし中華は、わりと健康そうな顔をしている。冷たい。酸っぱい。きゅうりが乗っている。さっぱりしている。夏の昼ごはんとして許されている感じがある。そこに極太麺と巨大チャーシューとマヨネーズを乗せると、冷やし中華が怪物へと変貌する。
それを、背徳系冷やし中華と言えば許される。いや、許されてはいないのかもしれない。許されていないから背徳なのだ。
「分かっています。これは少しやりすぎです。でも、そういう日もありますよね」。消費者は「そういう日もある」とうなずく。ここで商談成立である。
冷やし中華にまで背徳が来たのはちょっと面白い。冷やし中華、お前もそっち側へ行くのか。
望月さんがこちらを見ている。
その背後で死神が相変わらず正しいアドバイスで引き留めようとしている。
無視される。