変な場所に落ちているものには物語が生まれる
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山の中にコンドームが落ちていることがあるらしい。
山の中にコンドーム。
その時点で、かなり強い。何が強いのかはよくわからないが、とにかく情報の圧が強い。山。木。土。落ち葉。獣道。そこにコンドーム。人間の脳は勝手に物語を作り始める。
もちろん最初に思い浮かぶのは、本来の用途である。なぜ山で。誰が。どういう状況で。わざわざそこまで。いろいろな疑問が湧く。湧かなくていい疑問が湧く。人間の想像力は、こういうときに本当に余計な仕事をする。
しかし元の話によると、あれは猟師が銃口保護に使っていたものらしい。雨や泥が銃口に入らないように、コンドームをかぶせる。撃ったあとに外れて、そのまま捨てられていた、という話である。
なるほど。
一瞬、かなり納得しかける。
機能だけ見れば、たしかに優秀そうだ。薄い。伸びる。防水。個包装。銃口の太さに多少の差があっても、雑にかぶせられそうである。性的な意味を全部剥ぎ取って、物体としてだけ見れば、かなりよくできた小型防水キャップである。
コンドームという単語に引っ張られるから話がおかしくなるが、もしこれが「高伸縮性ラテックス製個包装マズルカバー」として売られていたら、わりと普通に納得してしまうかもしれない。名前は大事だ。名前が変わるだけで急に業務用っぽくなる。
ただ、そこでまた疑問が戻ってくる。
サランラップでよくないか。ビニール袋と輪ゴムでよくないか。テープでよくないか。指サックでよくないか。今なら専用の銃口保護具みたいなものもありそうだ。そもそも猟師は高齢化しているという話をよく聞く。高齢の猟師の生活動線上に、そんなに自然にコンドームが登場するものなのだろうか。
いや、もちろん登場してもいい。人それぞれだ。そこに踏み込むつもりはない。ないのだが、銃口保護具としてわざわざコンドームを買うくらいなら、最初から銃口保護具を買えばいいのではないか、という素朴な気持ちは残る。
説明を聞くと一瞬納得する。しかし納得しきる前に、別の場所から疑問が出てくる。そういうタイプの話である。
とはいえ、ここではいったん納得したことにする。
山の中に落ちているコンドームには、本来の用途とは違う実用的な意味があった。では、他の変な場所に落ちている変なものにも、実は別の意味があったのではないか。
たとえば、河原のエロ本である。
昔の河原には、なぜかエロ本が落ちていた。少なくとも私の脳内の河原には落ちていた。実際に何度も見た気がするし、見た記憶がテレビや漫画や噂話で補強されているだけの気もする。もはや現実なのか集合的な記憶なのかよくわからないが、とにかく河原にはエロ本が落ちていることになっている。
あれも、もしかすると本来の用途ではなかったのではないか。
釣り人が使っていた可能性はないだろうか。
釣り人は紙を使う。たぶん使う。釣った魚を一時的に包む。濡れた地面に物を置くときの敷物にする。ちょっと座るときに尻の下に敷く。焚き火の着火剤にする。仕掛けや餌を置く。魚を持って帰るときに、クーラーボックスの中で仕切りにする。
そう考えると、雑誌という紙束はまあまあ実用品である。
そして、どうせ持っていくなら、待ち時間にも読める紙束のほうがいい。釣りは待つ時間が長い。魚が釣れない。浮きが動かない。川は流れている。人生も流れている。そこで実用的な紙束がある。魚も包める。暇もつぶせる。
エロ本である。
いや、違う気がする。
魚を包むなら新聞紙でいい。新聞紙のほうが吸水性もありそうだし、なんとなく衛生的にも説明しやすい。エロ本で包んだ魚を家に持ち帰った場合、台所での説明コストが高すぎる。
「今日の魚、なんでこんな艶っぽい紙に包まれてるの?」
ただ、完全にないとも言い切れない。昔の人は今よりも雑だった。紙は今よりも貴重だったかもしれないし、雑誌は読み終わったあとに何かに使われることも多かったのかもしれない。引っ越しの梱包、窓拭き、工作、虫退治、何かを包む。紙媒体は、読み物であり、資材でもあった。
そう考えると、河原のエロ本にも、もしかすると実用的な役割があったのかもしれない。
いや、やっぱり普通に誰かが読んで捨てただけな気もする。
山の中のコンドームは、説明を聞くと一瞬納得する。河原のエロ本は、こちらで無理やり説明を作ってみたが、考えれば考えるほど苦しくなる。物語は生まれる。しかし、それで正しい説明になるとは限らない。
変な場所に変なものが落ちていると、人間はそこに理由を探す。理由が見つかると、ちょっと安心する。見つからないと、勝手に作る。人間の脳は、落ちているゴミにまでストーリーを要求する。かなり迷惑な生き物である。
ただ、どれだけ物語が生まれても、ゴミはゴミである。
銃口保護具として優秀だったとしても、釣り具として実用的だったとしても、山や河原に捨てていい理由にはならない。そこだけは、想像力を働かせなくてもわかる。
持って帰ろう。
あと、魚をエロ本で包むのは、できればやめよう。