広告は閉じられるだけでえらい

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PR TIMES: CHILL OUTが「秒で消せるバナー広告」を展開

CHILL OUTが「秒で消せるバナー広告」というものを出しているらしい。

広告の閉じるボタン、いわゆる×印をわかりやすく表示し、クリックしてもらうのではなく、むしろ一瞬で消してもらうことを目的にした広告だという。さらにCoke ONでは、次々に表示されるバナー広告を消して遊ぶ「バナー広告バスター」というゲームも配信するらしい。

なるほど。

広告を消す爽快感。

わかる。かなりわかる。

広告を消すだけで爽快感を得られる時代になってしまった。文明、進んでいるのか後退しているのかよくわからない。少なくともWeb広告の分野では、進化の向きが少し変な方向に曲がっている。

わたしも以前、広告閉じれない選手権 〜Can't Close This〜というゲームのようなものを作った。

スマホで開くとこんな画面になる。背景がすでに閉じるボタンだらけで、もうこの時点で少し疲れる。

スマホで表示した広告閉じれない選手権のトップ画面。スタートボタンとチャプター選択が表示されている。

悪質なポップアップ広告にありがちなパターンを集めて、どこを押せば閉じられるのかを探すゲームである。偽の閉じるボタン。小さすぎる×。背景に溶け込む×。閉じたと思ったら別の広告が出る。押してはいけないところが押したくなる場所に置かれている。

実際の問題画面では、記事の上に怪しい広告が重なり、右上にそれらしい×が置かれている。これを押して本当に閉じられるのか、罠なのかを見抜く。嫌な訓練である。

広告閉じれない選手権のプレイ画面。ニュース記事の上にポップアップ広告が重なり、右上に閉じるボタンらしきものが表示されている。

作っていて思った。

これはゲームなのか。

それとも現代Web生活の避難訓練なのか。

たぶん両方である。

最近のWeb広告は、かなりひどい。

いかにも怪しそうな金儲けブログや、まとめサイトの端っこで暴れている広告なら、まあそういう場所だよね、という諦めもある。入った瞬間に床が抜ける建物だと知っていれば、こちらも身構える。

しかし、今はちゃんとしたメディアサイトでも、かなり厳しい。

記事を読もうとすると、まず下から何かが出る。上からも出る。中央にも出る。動画が勝手に動く。通知を許可しますかと聞かれる。メルマガに登録しませんかと聞かれる。アプリで開きませんかと聞かれる。ログインしませんかと聞かれる。

記事はどこだ。

わたしは記事を読みたいのであって、サイト全体から歓迎の胴上げを受けたいわけではない。

しかも、それらを閉じようとすると×が見つからない。

右上にあると思ったらない。左上にあると思ったら広告画像の一部だった。少し待たないと出ない。背景と同じ色で見えない。押せる範囲が妙に小さい。指先サイズではなく、針の先サイズである。

これはもう、広告ではなく小さな罠ではないか。

もちろん、発信側に収益化が必要なのはわかる。

記事を書くにも、編集するにも、サーバーを動かすにも、人件費も運営費もかかる。全部無料で読ませろ、広告も出すな、課金もしたくない、というのはさすがに無理がある。

だから、広告そのものを否定したいわけではない。

問題は、広告枠という概念がどんどん溶けていることだと思う。

ページの上や横に広告枠がある。本文の途中に広告枠がある。これはまだわかる。広告枠だ。そこに広告がある。見たくなければ見ない。読みたい本文とは別の場所にある。

だが、画面全体を塞ぐ。本文の上に重なる。閉じるボタンを隠す。意図しないクリックを誘導する。スクロールを邪魔する。動画を勝手に流す。

それはもう、広告枠から出てきている。

広告が広告枠に収まっていない。

水槽から水があふれている。しかも床がぬれているのに、運営側は「水槽は必要ですから」と言っている。必要なのはわかる。わかるが、まずこぼれている水を拭いてほしい。

アドブロックのような仕組みについて、わたしはあまり積極的に好きではない。

広告収益で成り立っているサイトから広告だけを消すのは、まあまあ乱暴なことだと思っている。ちゃんと広告枠に収まっている広告まで全部消してしまうのは、発信側からすればきついだろう。

しかし、今のWeb広告を見ていると、それも仕方ないよな、と思ってしまう。

ユーザーがページを開くたびに、小さなストレステストを受けさせられる。どこに×があるでしょう。どれが本物でしょう。何秒待てば閉じられるでしょう。間違えて押すと広告先に飛びます。

そんなものを毎日やらされていたら、人は防御手段を入れる。

広告業界側から見れば、アドブロックは困った存在なのだろう。

でも、ユーザー側から見ると、全画面ポップアップや閉じにくい広告もかなり困った存在である。困ったもの同士が殴り合っている。間にいる普通の広告と普通の読者が少し気の毒だ。

CHILL OUTの「秒で消せるバナー広告」は、広告としてはかなりうまいと思う。

本来なら消されることは広告にとって失敗のはずだ。しかし、消されること自体を体験にしている。ユーザーが普段感じている「消せない広告への怒り」を、そのまま商品イメージにつなげている。

うまい。

うまいのだが、同時にかなり悲しい。

広告がちゃんと閉じられるだけで、ブランドの好感度が上がる。

それはもう、世の中の広告体験がかなり悪くなっているということでもある。

ドアが普通に開くだけで感動する建物は、たぶん普段のドアが悪すぎる。

全画面広告やポップアップ広告は、もう少しちゃんと規制されてもいいのではないかと思う。

全部なくせとは言わない。

ただ、閉じるボタンは見える場所に置く。一定時間消せない広告はやりすぎない。本文を読む行為を人質に取らない。意図しないクリックを誘導しない。広告枠からはみ出しすぎない。

このくらいは、かなり基本的な行儀ではないか。

広告は必要だ。

収益化も必要だ。

ただ、広告が広告枠からあふれ出して、本文を押しのけ、ユーザーの操作を邪魔し、閉じることすらゲーム化するようになったら、さすがに少しおかしい。

広告は閉じられるだけでえらい。

そんな評価軸が成立している時点で、Web広告の世界はだいぶ疲れている。

チルアウトしたいのは、飲み物を飲む人だけではない。

Webを読む人も、そろそろ少し落ち着きたいのである。

heavymoons: 広告閉じれない選手権 〜Can't Close This〜

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