ロケ弁はロケなのか
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ロケという言葉がある。
テレビのロケ。映画のロケ。地方ロケ。海外ロケ。ロケ地巡り。ロケ弁。
普通に使っているが、考えてみると少し変な言葉である。
ロケ。
ロケーション。
location。
場所。
それだけか。
場所で撮影するからロケ。
そう言われると分かるような気もするが、スタジオだって場所である。テレビ局のスタジオも場所だし、撮影所のセットも場所だし、会議室も場所だし、家の台所も場所である。場所でないところで撮影するほうが難しい。虚無で撮影するのか。
一応、辞書的にはロケーションには、映画を作るときに撮影所以外で実際の景色や建物を背景に撮影すること、という意味があるらしい。 また、映像制作の用語解説では、ロケーションは英語では単に場所だが、撮影業界でロケと言えばロケーション撮影を指す、という説明がされていた。
なるほど。
日本語のロケは、ただの場所ではなく、撮影所やスタジオの外へ出て、実在する場所で撮ることらしい。
スタジオの中で作った喫茶店ではなく、本当に営業している喫茶店で撮る。セットの街並みではなく、本当の商店街で撮る。作り物の公園ではなく、本当の公園で撮る。
そう考えると、ロケは「場所」というより「いつもの撮影用の場所ではないところ」なのだろう。
撮影のために作られた場所ではなく、もともと別の目的で存在している場所に、撮影チームが乗り込んでいく。そこにロケ感がある。
でも、そうなるとまた疑問が出てくる。
別のスタジオに移動して撮影するのはロケなのか。
いつもはAスタジオで撮っている番組が、今日はBスタジオで撮る。これはロケではなさそうだ。スタジオからスタジオへ移動しただけである。
では、会社の会議室で撮影するのはどうか。映像制作の用語解説には、地味な社内の会議室でもスタジオ以外の実在する場所ならロケーションだ、という説明があった。
つまり、観光地でなくてもロケ。屋外でなくてもロケ。遠くなくてもロケ。
社内会議室ロケ。
急にありがたみがない。
でも、撮影チームからすると、たしかにロケなのだろう。照明を持っていく。カメラを持っていく。音声を取る。机をどかす。ホワイトボードに謎の社内メモが残っていないか確認する。窓の外の看板が映り込まないようにする。
撮影所の中では制御できるものが、外に出ると急に制御しにくくなる。
たぶん、ロケという言葉には、その制御しにくさも含まれている。
ただの場所ではない。
撮影チームが、撮影用ではない場所に出ていくこと。
だからロケ。
ロケ、ロケーションを使った派生語はたくさんある。
ロケはもともとロケーション撮影のこと。
その撮影する場所を探すことはロケーションハンティング。ロケハン。
ロケ地はロケハンされた場所。
ロケバスはそこへ向かうバス。
ロケ弁はそこで食べる弁当。
ロケ弁も不思議な言葉だ。
ロケーション弁当。
場所弁当。
すべての弁当はどこかの場所で食べるのではないか。
ロケ弁は、映画やテレビなどの撮影現場でスタッフや出演者が食べる弁当のことだという。 もともとはスタジオ外の撮影現場で食べる弁当という意味だったのだろう。外に出ると、近くに店がないこともある。時間も読めない。大人数が同時に食べる。だから弁当が必要になる。
それは分かる。
でも、いまロケ弁と言うと、スタジオで食べていてもロケ弁っぽい。
スタジオの控室で、撮影の合間に食べる弁当。
それはロケなのか。
でもロケ弁ではありそうだ。
ここでロケという言葉は、撮影所の外という意味から、撮影現場っぽいもの全体に広がっている。
現場で出る弁当。
撮影の合間に食べる弁当。
時間が押しても冷めても食べられる弁当。
スタッフが「弁当入りました」と言いそうな弁当。
それがロケ弁なのだろう。
たぶん、コンビニで買ってきた幕の内弁当でも、撮影現場で配ればロケ弁になる。
逆に、ロケ弁と銘打った弁当を家で一人で食べたら、それはロケ弁なのだろうか。
商品名としてはロケ弁。
状況としてはただの夕飯。
ロケとは何か。
弁当とは何か。
急に哲学になってきた。
言葉というのは、もともとの意味から少しずつ広がる。
ロケーションは場所。
ロケーション撮影は、撮影所の外で実際の場所を使う撮影。
ロケは、その撮影。
ロケ弁は、その現場で食べる弁当。
そのうち、ロケ弁は撮影現場周辺で食べる弁当全体になる。
こうして、ただの場所だった言葉が、いつの間にか弁当まで連れてくる。
ロケ。
短いくせに、なかなか働き者の言葉である。
ただ、スタジオで食べるロケ弁だけは、やっぱり少し引っかかる。
それはロケなのか。
まあいいか。
弁当だし。