実話怪談に警察が出てくる
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ベトナムで、旅先で幽霊に遭遇したという実話怪談風の投稿をSNSに書いた女性が、警察から虚偽情報と判断されて罰金になった、というニュースを見た。Viet-joの記事によると、投稿はThreadsに37件、5万2000件以上のいいねや多数のコメント、シェアを集めたらしい。罰金は750万VND。日本円でだいたい4万5000円くらい。
これだけ聞くと、怪談を書いたら罰金になった、みたいな雑な話に見える。だいぶ怖い。幽霊も怖いが、投稿したあとで警察が来るのはもっと怖い。怪談としての完成度が高い。
ただ、記事を読むともう少し現実的な話だった。問題になったのは、単に幽霊を見たという話だけではなく、ニンビン省の観光地で不可解な体験をしたとか、運転手に無理やり降ろされたとか、そういう具体的な話が含まれていたことらしい。現地警察は、観光イメージや治安に悪影響を及ぼした、と見ている。
なるほど。日本で言えば、人気観光地について「夜中にタクシー運転手に山奥で降ろされて、そこから先は人ならざるものが……」みたいな話を盛って投稿したらバズってしまい、観光協会と警察が真顔になる、みたいな話だろうか。
日本だと、たぶんその時点ですぐに国家が出てくる感じはあまりない。SNSで嘘っぽい怪談を書いたくらいなら、せいぜい「作り話乙」と言われるか、ツッコミが集まるか、あるいは怪談好きの人たちがそれなりに楽しんで終わる気がする。
もちろん日本でも無敵ではない。特定の店や人の評判を落とせば名誉毀損や信用毀損、業務妨害の話になりうる。災害デマや虚偽通報なら普通にまずい。だから日本なら何を書いても大丈夫、という話ではない。
ただ、それでも「観光地に関する実話怪談っぽいバズ投稿」にサイバーセキュリティ課が出てきて、運転手に事情聴取をして、投稿者を呼び出して、投稿を削除させて、行政処分を下す、という流れは、日本の感覚からするとかなり国家が近い。幽霊より国家のほうがフットワークが軽い。
しかもベトナムでは、SNS上の虚偽情報への罰則を強める流れもあるらしい。Vietnam Newsの記事では、2026年7月から、虚偽情報が社会不安を起こしたり、社会経済活動を害したり、組織や個人の権利利益を侵害したりした場合、より重い行政罰の対象になりうると報じられている。
たぶん日本人が日本から日本語で、ベトナムの観光地を舞台にした怪談をちょっと書いたくらいで、いきなりベトナム警察が海を越えてやってくることはあまりなさそうだ。そこまで暇ではないと思いたい。
でも、ベトナム旅行中に現地名を出し、具体的な店や運転手や観光地を絡め、英語やベトナム語でバズり、現地の観光イメージに影響しそうな話になったら、わりと危ないのかもしれない。怖い話を書いたら、本当に怖い人たちが来る。いや、怖い人たちと言うと語弊がある。行政の人たちが来る。そっちのほうが別の意味で怖い。
「信じるか信じないかはあなた次第です」という言い回しがある。日本のオカルト番組や怪談話では、話し手が責任をふわっと視聴者側に投げる便利な呪文として機能している。断定はしていません。信じるかどうかはあなたが決めてください。私はそういう話を聞いただけです。ふわっ。
しかし今回のベトナム式運用だと、そこに警察が入ってくる。信じるか信じないかの前に、事実か虚偽かを確認します。運転手に聞きます。現地を調べます。あなたが盛りましたね。はい、行政処分です。
実話怪談にファクトチェックが入る世界。
これはこれで、かなり怖い。
海外旅行中に怪談を書きたくなったら、舞台は架空の村にしておいたほうがよさそうだ。少なくとも実在する観光地と実在しそうな運転手を巻き込むのはやめたほうがいい。幽霊が出るかどうかはわからないが、警察が出る可能性はある。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
ではなく、所轄次第です。